シュールの意味を語源からわかりやすく解説!
シュール(英:Surreal)とは、「現実離れしている状況のこと」を表す言葉です。語源は、フランスの作家であるアンドレ・ブルトンによる「シュールレアリスム宣言」という書物の中で用いられていた「シュールレアリスム」の略から来ています。
たとえば、美容室へ行って髪をカットしてもらいシャンプー台へ向かう現実的な流れの中で、シャンプー台までの距離が「新幹線で8駅分」といった現実離れしている状態もシュールと言えるでしょう。
このように、日本においては現実離れしている滑稽な状態に対して「シュールだ!」といいますが、語源的には現実離れしていることだけを表す言葉なので、滑稽さは日本特有のニュアンスとなっているようです。
というわけで、もしシュールなネタを考えたいのであれば、現実離れしていて滑稽な状態を想像してみると良いでしょう。
ここからは、シュールの語源とされた「シュールレアリスム」について、興味深い歴史があるので紹介していくことにしたいと思います。
シュールレアリスム(仏: surréalisme)とは何か?
シュールレアリスム(仏: surréalisme)とは、第一次世界大戦中のスイスにおいて、アナーキズム(無政府主義)の思想家らが引き起こしたとされるダダイズム思想(=反戦思想)から派生した「理性や論理的破綻にとらわれることなく、芸術は現実離れしててもいいんじゃない?」という思想のことです。
より厳密な定義は、以下のとおりです。
口頭、記述、その他のあらゆる方法によって、思考の真の動きを表現しようとする純粋な心的オートマティスム。理性による監視をすべて排除し、美的・道徳的なすべての先入見から離れた、思考の書き取り
引用元:André Breton (1985) (フランス語). Manifestes du surréalisme. Folio. Gallimard. p. 36
ちょっと、むずかしいですよね(笑)
一つずつ説明していくことにしたいと思います。
まず、シュールレアリスムという言葉が生まれる背景には、第一次世界大戦に対する反戦運動があったことが知られています。これは作家のアンドレ・ブルトンがシュールレアリスム宣言をする前の話です。
度重なる戦争によって疲弊しきっていた欧州諸国では、反戦運動の一環としてダダイズムと呼ばれる現実否定運動が広まっていました。
要するに、戦争から自由になるためには政府なんていらないと各地で破壊活動をおこなったり、倫理観や常識すらも破壊して我らは世の中にあるすべての権力や理性から開放されて自由になるのだといった感じですね。※これがアナーキズム(無政府主義・無秩序主義)とかいうヤベーやつです。
こういった感じで現実逃避の路線へまっしぐらだったわけですが、ここで「人間にとって意識というのは氷山の一角にすぎない」とか「夢こそが人類の願望を充足するものである」という主張で有名なフロイトの深層心理学に影響を強く受けていた作家のアンドレ・ブルトンが登場してくることになります。
このアンドレ・ブルトンという人物は、フロイトの心理学を応用することで、理性や論理によって支配された現実世界ではなく、夢や幻想といった潜在意識的な世界を表現することで人間の開放を目指すという思想を「シュールレアリスム宣言」として発表します。
これだけだとなかなかに意味不明なので、もう少しかんたんに説明しておくと、政府に対する悪ぐちを言ったり秩序を破壊するような活動をするぐらいなら、「もっと自由になろうぜ。たとえ現実と矛盾していても、論理的に破綻していても、理性によって抑圧されている無意識を開放すれば良いじゃん?」といった感じの宣言です。
極端な話、半分寝ながら書くことによって理性などに一切邪魔をされることのない人類の素直な願望や無意識を暴き出すことができるし、それを現実と対比することによって現実を見つめ直すきっかけになるだろうと考えていたわけですね※この意識が混濁している状態で執筆することをオートマティズム(自動記述)と呼びます→ 詳細はこちら!
こういった流れを受けて、作品の良さが一般人からしたらよくわからんと言われがちな、キュビズム作品の創始者ピカソが登場してくることになりました。
これは客観的な評価(理性)を度外視して、人から理解されることを一切考えずに思考を破棄して潜在意識(無意識)のみで超自由すぎる感じで描かれたので、評価しようにも本人にすらなんなのかよくわからんわけです。
それ以外にも、現実的ではなく論理的にも矛盾しているような作品が次々と登場してくることになるのですが。こういった一般人からするとわけがわからん「シュール(シュルレアリスムの略語)」という作品群が、日本に渡ってきたときに意味を変質させ、次第に現在のニュアンスである「現実離れしている様子」という意味で定着していく運びとなります。
特に、現実逃避的な思考を根源とする「ユートピア文学(理想郷やサディズムなど)」は流行し、フォークナーやヘミングウェイといった作家が有名になりました。
ちなみに、これらをモチーフにしてガルシアという人物が、メタフィクション作品である『百年の孤独』を作成することになるのですが、これがマジックリアリズム(理想と現実の境界を曖昧にする技術)の元祖と言われることになります。
ある意味で、物語には論理的な筋がなければならないとするプラトンやアリストテレスから続く構造主義的な思想(※世の中は論理的な構造に支配されているので、それを探求しようという考え方)に対して、「もう何も考えたくないでござる」といった反論となっていることがわかります。
そう考えると「マジックリアリズム」というのは、アリストテレス著『詩学』の欠点を指摘していたホラティウスの『詩論』にあるデコールム(=論理に囚われることの無い、観客の快へとつながるふさわしい表現方法)の良い例となっている気がしますね。
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