【詩論】ホラティウスから学ぶ詩論まとめ!
『詩論(アルス・ポエティカ|ラテン語:Ars Poetica)』というのは、クィントゥス・ホラティウス・フラックスという古代ローマ時代を生きた南イタリアの詩人が残した「詩について」という論文のことです。
ホラティウスは、友人のウェルギリウスとともに、ラテン文学の黄金期を代表とする詩人だったとされています。
また、『詩論』はアリストテレスの『詩学』と並んで重要視されることとなった古典美学理論の一つです。
とはいっても、別に『詩学』に比べれば難しい理論の話なんかではなく、友人へ宛てた手紙のような(いまでいえば、日記のような)書きぶりで「詩人になる人へのアドバイス」や「物語の作り方に対するコツ」を記していたものです。
ホラティウスが『詩論』の中で述べている内容を、重要な部分だけ引用してしまえば、アリストテレスが『詩学』で述べているような理論的な話には、特に関心はなくて「読者を楽しませながら教え、快と益を混ぜ合わせる者が万人の票を獲得する」と述べています。
つまり、理論的にどうこうだから良い悪いではなく、より多くの読者が喜べばそれが最良であるといった考え方なわけです。そのため、『読者受け』をする作品をいっぱい出すようにと詩人へアドバイスをしていたんですね。
※ちなみに、時代的にはアリストテレスの『詩学』のことを、ホラティウスは知らない可能性が高いのだそうです。別に、お互いを批判しあっていたといった事実はないと思っていいでしょう。彼らは、単に立場が違っただけのようです。
さらに、ホラティウスは「詩人はできる限り真実を追い求めるべきだ」とも述べているのですが、これは美しいものを厳密に言葉にすることによって、実物と同じくらい美しいものを何もないところに生み出すことができるという方向性で、ディエゲーシス(叙述)の方向に芸術を考えていたのではないかと思われます。
アリストテレスの『詩学』は、ミメーシス(模倣)という不完全性やプロットといった数々の理論的な武器を現代の小説家や作家へ与えてくれましたが、ホラティウスは、形式にとらわれることなく人生を感じ取ったままに面白いと思ったことを、ただし「ふさわしい(デコールム)」形で、一人の人間として読者に共有しようとする大切さを説いてくれているというわけです。
いやー、深い話ですよね。
アリストテレスとホラティウスの決定的な違いは、読者や聴衆に対して物語を通じて「理論的に説得を試みた(ミメーシス主義)」なのか、「感情的に美しい言葉、その人にふさわしい言葉で心を魅惑しようとした(ディエゲーシス主義)」なのかといった点なのではないでしょうか。
ここまでを、脳みそが筋肉のような方にもわかるようにいってしまえば、
アリストテレス<「この作品は、いままでにないくらい面白い出来になった!だって、こういう仕組みをこう改良して、理論的に始めての試みかもしれないんだ!政治や世論でも評価を獲得できるぞこれは!」
ホラティウス<「面白いこと考えついた!あの人に伝えるためには、どういう形で書けばいいかなぁ?読者からめっちゃ感想いっぱい来る!嬉しい!(笑)」
というような創作に対する「態度」の違いですね。
結局の所、理性で語るか感情で語るか、客観性で語るか主観性で語るか、右脳で語るか左脳で語るか、物語を重視するかキャラを重視するか。物語を作ることを目的とするか、物語を使うことを目的とするか。
すべてここに繋がってるというわけだな~
— 管理人らぴきら🌸【作家の味方】@22,008/360,000 (@kazakiribana2) March 29, 2020
まとめ
まとめです。
現代でもよく耳にする「読者受けを狙った作品」というのは、アリストテレス的に言えば「ナンセンス以外のなにものでもなく、観衆が軟弱すぎるだけである」と僻みや批判の的になることもあります。
ただ、ホラティウスが『詩論』で述べているように「作者は大衆が求めるものを作るべきだ」という主張も、別に変なことではなくて、むしろ自分が面白いとか美しいと思ったことを観客に対して「ふさわしい形で」表現できる力を身につけることの方が、詩人にとっては重要だと述べているわけですね。
誰かのことを思って描いた物語というのも、個人的には好きなんですけどね。それが大衆に好かれているからといって、あからさまな拝金主義の作品と同一視されるのはなんだか悲しいものです。
大衆迎合主義(受け手に配慮するもの)と拝金主義(金がほしいだけで中身がパクリのようなもの)を見分ける目となるインフルエンサーも誕生していますし、なんだかんだいって現代は順調なのかもしれませんね。
そして、この「ふさわしさ(デコールム)」というのは、言ってしまえば登場人物の魅力(キャラクター造形)のことです。劇中では役者(キャラクター)が、観客と対話する”読者にふさわしい語り手”となるわけですからね。
これをジラール・ジュネットの理論でまとめると、それぞれ以下のようなポジションに落ち着かせることができます。おもしろくないですか!?(笑)
ホラティウスの『詩論』には、これ以外にも現代に通じる「詩人の心構え」のようなことが書かれています。書き方が少しむずかしいので読むのには骨が折れる本ですが、数年前に出版されたような本よりは語り継がれるだけの密度はあるとおもいます。
▼興味がある方は、こちらからどうぞ!
ちなみに、物語が途中から始まるというプロット技法「イン・メディアス・レス(In medias res)」も、このホラティウス『詩論』から出てきているものだそうです。
住野よるさんの「また、同じ夢をみていた」という作品が参考に出来ると思います!
→アプリで聞きに行く!(※掲載期間が終了している可能性もあります)
▼ キャラクター造形のコツまとめ!
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