トートロジー
トートロジー(tautology)とは、「私は、私である」や「リンゴは、リンゴである」といった、ある事柄を同じ意味の言葉(同語や同義語、類義語)を用いて、説明する文の書き方のことをいいます。
また、Wikipediaによると、以下のように説明されています。
トートロジー(英語:tautology, ギリシャ語:ταυτολογία, 語源はギリシャ語で「同じ」を意味するταυτοから)とは、ある事柄を述べるのに、同義語[1]または類語[2]または同語[3]を反復させる修辞技法のこと。同義語反復、類語反復、同語反復等と訳される。関連した概念に冗語があり、しばしば同じ意味で使われることもある。また、撞着語法はトートロジーの反対の技法である。
現代英語用法辞典の定義では「同じ事を二度言う」とされ、スタイルの誤りと見なされることが多い
引用元:Wikipedia
~ 具体例 ~
- 同語反復の例:犬は、犬だ。
- 同義語反復の例:雨の日は、傘マークの日だ。
同語反復や同義語反復、同義反復、類語反復とも呼ばれることがありますが、これらは全て『トートロジー』と呼ばれる修辞技法(レトリック)の一種です。
また、論理学における『恒真式(こうしんしき)』という専門用語の英語訳として用いられることもあります。
それでは、曖昧さを回避するために『トートロジー』の文学的な意味と、論理学的な意味をもう少し深堀りして確認することにしましょう。
目次
> 文学的なトートロジーの意味と効果
1.忘れていたことに気付かせたい時
2.他との違いを明確にしたい時
3.感慨に耽る台詞に使う
4.言い切りを強調したい時
5.トートロジーの良い例&悪い例
> 論理学におけるトートロジーの定義
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文学・言語学におけるトートロジーの意味と効果
文学・言語学におけるトートロジーの意味は、大きく「同義語反復」と「同語反復」の二種類のトートロジーにわけることができます。
同語反復は、全く同じ語を全く同じ語で説明するものです。冒頭でご紹介した「犬は、犬だ」が、同語反復と呼ばれるものです。
その一方で、同義語反復は、同じ言葉を同義語で説明するものとされています。冒頭でご紹介した「雨の日は、傘マークの日だ」が、こちらですね。
また、一般的にトートロジーは、「Aは、Aです」と言う文体だけではなく、様々な形で存在しています。
例えば「わたしは、男か女です」という文。「男の人は、女の人ではない」といった文もトートロジーと言えます。
さて、トートロジーが文学的に意味を成している主要なケースを一つずつ、具体例と共にご紹介していこうと思います。
1.忘れていたことに気付かせたい時
どの場面で、この台詞が登場するかによって意味合いは異なりますが、上のような例文は文学的に意味を持ちます。
というのも、例文では「お父さん=お父さん」ということが言いたいわけではなく「お父さん=お父さんという頼れる存在であること」ということ暗に意味しています。
また、「お父さん=お父さんという頼れる存在であること」という図式は、必ずしも正しいとはいえませんが一般的には理解されやすい内容だと思います。
しかし、普段から「この人は、わたしのお父さんだから頼れる人なんだ!」と思っている人は、あまり居ないですよね。
周知の事実と心のどこかでは思いながらも、普段は当たり前のことだと思っているわけではないのです。
だからこそ、人をハッとさせる修辞法として機能できるというわけですね。
物語において、当たり前のことを主人公が再認識するといった感動場面は少なくありません。そのような場面では、トートロジーをうまく活用することができるでしょう。
2.他との違いを明確にしたい時
例えば、他人に自分の人生を好き勝手に左右されているキャラクターが小説に登場してきていたとして、上の例文のような言葉を用いたとしましょう。このトートロジー的な文章にも、文学的に意味が出てきます。
つまり、「いつの間にか『わたしの人生=人から左右される人生』となってしまっていたけれど、そんなのは間違いで『わたしの人生≠人から左右される人生』だったんだと気付いたこと自体を表現する文」となるからです。
他にも「私は私、君は君」といった文がありますが、こちらの文もこのパターンに当てはまると言えるでしょう。このように、「他のものとは違うんだ」という違いを強調する際にもトートロジーは利用されることがあります。
3.感慨に耽る台詞に使う
次に、自分の考えていたことを再認識することで感慨に耽る場面を描く時にも、トートロジーを活用することがあります。
例1の台詞では「桂木くんの実際の行動」が「自分の信じていた桂木くんの行動」と一致していたことについて、再確認をした主人公を描写することができます。
また、例2のように悲観した表現でも利用されることがあります。再確認の仕方にも「皮肉」や「感慨」など、いろんなケースがあるようですね。
4.言い切りを強調したい時
例のように同じ言葉を何度も繰り返すことによって、発言の語意を強めるために、トートロジーを用いることがあります。
ここまでの例を見ていると理解しやすいと思いますが、トートロジーは総じて語意が強気に出る傾向があります。少しキツイ言い方だったり、癖が強い台詞になる例が多かったですよね。
トートロジーの良い例&悪い例
ここまでは、文学的に意味のあるトートロジーをご紹介してきました。
しかし、「この文は、トートロジー的でナンセンスだ!」とか「この文は、当たり前のことを書いているから不要である」というように、トートロジーに対して少なからず悪印象を持った指摘も少なくありません。
それでは、トートロジーの良し悪しはどこできまるのでしょうか?
何を持って良い悪いなのかという話はありますが、その理由の多くは、「文章が読みにくくなるから、辞めて欲しい」という願望から出てきているものです。
例えば、次のような例が過剰装飾としてあげられます。
技術革新は新しいに決まっていますし、戦争が暴力的でないわけがありませんよね。
例文に違和感を持った方も、いらっしゃるのではないでしょうか。また、読者が偉大なものを神と定義していた場合は、それすらもトートロジーとなり得ます。
「読みやすい文章というのは、短い文章である」と良く言われることがあります。これは、日本語の文法に原因があるのですが。
そこは割愛するとして、感覚的に以下の文は、どれが読みやすいか?という問題があります。
例1.は『読みやすさ』という意味では、端的でわかりやすいですよね。
例2.は、「姉である春香」ではなくて、「春香」だけで通じる上にレトリックとしての効果もありません。少し読みにくくなっているのがわかると思います。
問題になるのは、例3.の文です。
この文の場合、『強調』のレトリックとして、トートロジーが「妹であること」を強調する役割を果たしている可能性があるので、必ずしも訂正すべきとはなりません。
むしろ、こういった書き方のスタイルこそが、自分の文体なんだという方もいらっしゃるでしょう。
それは、その通りで、要するに読み手が読みにくくなければ、それで良いのだと思います。
このように、文章を書いていると文体と、修辞技法が喧嘩しているような状況を他者から指摘されることが度々あります。
しかし、そういう時は、上記のような判断でトートロジーを活かせていれば問題ないでしょう。
また、「『文体』とは何か?」という所も、なかなか簡単な解説が見当たらなかったので、以下の記事に超わかりやすくまとめておきました。
この際ですから、一緒にやっつけてしまっておきましょう!
論理学におけるトートロジー
このセクションでは、論理学や数学におけるトートロジーについての説明をしたいと思います。
一見、論理学的には意味がないのが自明の理なので、粗末に扱われがちですが、ひそかに注目されているのには理由があります。
検索エンジンやAIを最適化する役割を持つからです。ネックなのは、同義語反復の方ですね。
例えば、皆さんがよく使うグーグルの検索で「キャラクター」と「キャラ」という二つの単語を検索したとしましょう。人間からすると同じ意味をもつ単語ですが、機械からすると別の単語です。
そこで、機械に「キャラクター=キャラ」と覚えさせておけば解決するのですが、次の例ではどうでしょうか?
「果物」と「果実」です。一見同じように思えますが、実は「果物」は食べられる「果実」のことなので、時と場合によって「イコール(=)」にもなりますし「ノットイコール(≠)」にもなります。
他にも、「くも」という言葉は同音異義語として「雲」と「蜘蛛」どちらの意味を持つのか字面だけでは判別が出来ません。「くも≠くも」であることもあり得るのです。
このような例は、いくらでも考えることが出来るためすべてをイコールとして機械に覚えさせるのには問題があります。
したがって、トートロジーを解析することで、AIにどのくらい同じ意味の単語なのかを教育していくことができます。そこに意義が生まれるのです。
まとめ
まとめです。繰り返しになりますが、トートロジーとは「ある事柄を同じ言葉や類義語によって説明する修辞法」のことです。
小説において、トートロジーを活かすのであれば「意図を持った台詞を描きたい場合」か「地の文を強調したい場合」のどちらかでしょう。
クライマックスといった重要な場面において、キャラクターの台詞に重みを持たせることができるでしょう。
また、恒真式(こうしんしき)とは、いろんなサイトで難しい解説をなされていますが、大した意味は持っていません。
シンプルに、「恒久的に真実である等式」の略語です。一般的な公式を作ることで、難しくなりすぎた式にも簡単に当てはめられるように、準備されたものくらいに捉えておくのが良いでしょう。
トートロジーのように、文章力を引き上げてくれる技法たちのことをレトリックと呼びます。
他にも、レトリックは沢山あります。ページ下部から技法の一覧も見れるので、参考にしてみてくださいね!
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