キャラクター造形・人物造形の意味とは?
キャラクター造形とは、小説や映画といった物語の世界に登場してくる人物(キャラクター)を生み出す作業のことであり、大きく分けて「外面的造形」と「内面的造形」に分類することができます。
ここでキャラクターの『外面的造形』というのは、髪型や服装、経歴といった外見を含む、そのキャラクターに関する客観的かつ具体的な事実たちのことです。以前、ご紹介している『キャラクター設定シート』にある項目(最後以外のもの)は、すべて『外面的造形』に関連してくる設定項目といえるでしょう。
一方で、キャラクターの『内面的造形』というのは、いわゆる人物に血を通わせるような「性格」や「物語における役割(風刺的なポジション)」といった非常に曖昧な概念(≠設定)たちのことです。
そこで、前回『魅力的なキャラクターの作り方』という記事のなかで、『外面的造形』に関する解説をしておきました。まだ読んでいないという方は、そちらからご参照ください。
したがって、今回はキャラクターにおける『内面的造形』に関する解説にフォーカスして、お話していくことにしたいとおもいます。
一体、どうすれば「この作品は、キャラクターの造形がうまいな!」と読者に思わせることができるようになるのでしょうか?
キャラクターが持つ性格の決め方とは?
結論からいいますね。キャラクターに魅力的な『性格』を作り上げたいのであれば、登場人物たちが直面している問題(世界観設定)に対するスタンス(立場)を表明させてあげると良いでしょう。
それだけでいいです。かんたんにいってしまえば、人間性というのは切羽つまったときにこそ、わかりやすくなるということですね。
ただし、これはライトノベル制作におけるキャラクター造形手法というよりは、脚本や群像劇におけるキャラクター造形にふさわしい設定手法となります。
もし貴方が群像劇以外の比較的内容が軽めのライトノベル作品を描きたいと考えているのであれば、外面的造形に、モチーフキャラクターを加えて設定してあげればもう十分です。
というのも、ライトノベル作品の読者層というのは『読みやすさ』を最重要視している傾向があるのに対し、元より複雑かつ非常に曖昧なキャラクターの性格(内面的造形)という概念は、「人物の価値観を理解してもらう」のと同じことを意味するので、難易度も高く読者にも読解力や相互理解の姿勢を要求する傾向があるからです。
一方、アニメや映画におけるシナリオ制作では、何人ものキャラクターへ観客を感情移入させることが可能です。これは小説と比較して読者に伝えることのできる情報量のキャパシティが高く、媒体的に容易だからです。
こういった理由で、群像劇型の小説やノーベル文学賞を目指すような純文学系の作品、アニメや映画のシナリオ制作におけるキャラクター造形に関心があるのであれば、先述の通りキャラクターのスタンスを表明させてあげると良いでしょう。
といっても、百聞は一見にしかずとも言いますから、続いて具体例のパートへ移っていくことにしましょう!
アルベール・カミュの『ペスト』
ノーベル文学賞を受賞したことで有名なアルベール・カミュの『ペスト』という作品があるのですが、キャラクターの内面的造形が非常にうまい小説といえば、この作品が挙げられるでしょう。
群像劇型を取っているので、群像劇の書き方が知りたいという方にもおすすめの一冊です。
さて、ここからはネタバレは極力廃しつつも、どのような工夫を凝らしているかというところに焦点をあてて、解説していくことにしたいと思います。
ご存知の方も多いかと思いますが、タイトルにもある『ペスト』というのは、ペスト菌の感染によって起きる感染症のことで、この小説の題材は「感染症によるロックダウン(都市封鎖)」となっています。
そして、ロックダウン(都市封鎖)が起きた時に人々は一体「どのような行動をとり、どのような生き方を貫いていくのか?」ということを物語っていく構成となっているのですが、キャラクターの造形はどうなっているのでしょうか?
登場人物(キャラクター)たちは、以下の通りとなっています。
語り手:その正体は最後になって明かされる。
ベルナール・リウー:医師。
ジャン・タルー:よそ者、彼の手帳がこの作品のもうひとつの語手。
ジョセフ・グラン:作家志望の下級役人。
コタール:絶望に駆られた男、犯罪者。
カステル:医師。
リシャール:市内で最も有力な医師の一人。
パヌルー:博学かつ戦闘的なイエズス会の神父。
オトン氏:予審判事、「ふくろう男」。
レイモン・ランベール:新聞記者。
喘息病みの爺さん:リウーの患者
引用元:wikipedia『ペスト(小説)』
登場人物はたくさんいますが、かんたんにまとめてしまうと、感染症に対して医師というポジションで真っ向から対処していく「リウ―」、現状を記録して研究しようと努める「タルー」、出来る範囲で現実的に対処しようとする「グラン」、転売でチャンスを掴む「コタール」、感染症を天罰だと説く神父「パヌルー」、封鎖された都市から逃げ出そうと奮闘する「ランベール」といった感じですね。
このように、物語世界において「感染症」といった登場人物らを翻弄するような出来事が発生している場合、人は性格や置かれた立場、過去の経験に基づいて、異なった行動をとることになります。
「性格を設定しよう」と考えると難しいのですが、このように問題が起きたときに「どう対処しようとする人物なのか?」といった部分に対する答えを明確にしておけば、間接的に性格を設定したようにみせることが出来るというわけです。
実は、カミュ著の『ペスト』の内容は、最近話題の新型コロナウイルス感染症に対する政府の動きや人々の騒動についてはかなり酷似したエピソードとなっています。
もし近い未来に「都市封鎖」がおこったとすれば、身近で一体何が起こるのか?だれがどんな行動をするのか?といったことが記されているので、今後わたしたちが感染症に対してどう生き抜いていくべきかという議論の手がかりとなるかもしれませんね。
というわけで、
キャラクターの内面的造形を魅力的にするには、登場人物たちが物語世界において与えられた試練や課題に対して、どう向き合うのかといったスタンスを明確にしてあげると良いでしょう。
その動機づけとして、キャラクターの職業(=ポジション)や、過去に体験したこと(=人生観のようなもの)を組み合わせて描いていくと、リアリティ溢れる作品を生み出すことができるのではないでしょうか。
というわけで、ご精読ありがとうございました!
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