異化効果の意味
異化効果(いか こうか|ロシア語: Остранение, Ostranenie)とは、日常生活において人々が親しんでいる風景や物事・言葉たちを、奇異で非日常的なものとして捉え直すことによって、新鮮さを取り出す演出技法のことです。
異化効果の事例
面白い例をご紹介するとすれば、以下の画像が良い事例となってくれると思います(笑)
異化効果の具体例に、丁度よさそう!w pic.twitter.com/YLKEDyLY19
— 管理人🍁らぴ【作家の味方】 (@kazakiribana2) January 23, 2020
これは大阪市阿倍野区にある「元祖漬けもんや」というお店の広告らしいのですが、
漬物の作る過程を改めて見つめ直すと、上記の画像ように表現できて、なんとも面白さを帯びているのがわかります。
こういった現象を意図的に生み出すこと自体を、創作界隈においては『異化』と呼んでいます。
『異化』という言葉の起源は古く、旧・ソ連時代の文学理論家「ヴィクトル・シクロフスキー」氏が提唱したとされています。
その後、ドイツの劇作家であるベルトルト・ブレヒトが、演劇表現へ取り入れたことによって、演劇における演出方法のひとつとして広まったとされています。※別に覚える必要はありません。
また、文献によっては『異常化』や『脱自動化』という言葉を用いて説明されてきたようです。
『脱自動化』と呼ばれてきた所以は、異化の対義語とも取れる『自動化』という言葉の意味を理解しておくと、わかりやすくなります。
例文でわかる『自動化』の意味!
そもそも言語の中には、「日常的言語」と呼ばれるものと「詩的言語」と呼ばれるものが存在しているといわれています。
日常的言語とは、私たちが常日頃から会話やビジネス文書で用いる。いわば、わかりやすい・伝わりやすい言葉たちのことです。
上記のように、文学的に表現が上手いかどうか。正確な表現であるかというのは、全く関係なく。意味が伝われば十分とするような言葉の言い回しを日常的言語と呼びます。
※ちなみに、厳密には扇風機の「羽根」が回っているですが、これは誤りではありません。比喩表現の一種で、提喩(ていゆ/シネクドキ)と呼ばれている修辞技法の一種です。
基本的には、婉曲表現が少なく、ありのままを伝える文章に用いられる傾向があります。
これに対し詩的言語というのは、認識の過程を長引かせることで、言葉の意味を認識してもらうことよりも言葉の意味を知るまでの過程をゆっくりと認識してもらうことを第一義として捉えている言葉たちのことです。
以下では、日常的言語の例文で用いたものを詩的言語に置き換えてみました。
このように、少し回りくどい言い回しや曖昧さを含む文章に、好んで用いられる傾向があります。
そして、本題である『言語の自動化』というのは、元来「例文2」のような正確な描写で表現をしていたけれど、わかりやすく伝えることを目的として、次第に「例文1」のような言い回しへと変化していくことを言います。
これの逆の作業。すなわち、例文.1のようなわかりやすい文から、例文.2のようなつぶさな描写へと戻していく作業のことを『異化』と捉えた人もいたというわけですね。
物語における異化効果の種類
先述の通り、『異化』とは日常的に親しまれているある事柄を、まるでそれをはじめてみた宇宙人からみたような視点で描くことなのですが。
ここで、小説における『視点』が干渉してくることによって、二種類の『異化』に分類してあげることが可能となります。
つまり、宇宙人の視点を持っているのが「読者側」なのか「登場人物側」なのかといった分類方法です。これによって、小説や物語における『異化』に期待できる効果が少し異なってきます。
1.読者側が異化した視点を持つ場合
まず、読者側が異化した視点を持つ例としては、トイ・ストーリーなどが、わかりやすいでしょう。
ピクサーアニメーション作品で有名な『トイ・ストーリー』では、子供の玩具側が主人公となって物語を展開させていきます。
幼少期に玩具で遊んでいたことのある人にとっては、玩具との遊び時間や、処分する時というのは何気ない日常的な風景の一部にすぎません。
しかし、玩具側の視点を持って描くことによって『異化』された新鮮な世界観を垣間見ることが出来ています。
同様に、家畜たちを主人公として、家畜の一生を人に模してストーリーを展開させることで、人間の残忍さを風刺するような作品なども『異化』を利用した作品の典型例として挙げることが出来るでしょう。
かんたんに言ってしまえば、視点を変えて物事を見つめ直すことを『異化』と呼び。このように異化を利用すると、独創的な世界観を作るのに役立てることもできます。
2.登場人物が異化した視点を持たされている場合
もう一つは、異化によって「登場人物」と「出来事」の関係性が、ストーリー進行上で変化していくという場合が考えられます。
わかりやすい事例として、小説ではないですが「CHiCO with HoneyWorks」の『アイのシナリオ』(曲です)が挙げられるでしょう。
曲のニ番まで聞けば、十分理解できると思うのですが。二番の中盤で、少女の敵と味方が反転していることがわかります。
これは少女が真相を知り『異化』していた視野が元に戻ることによって、物語に登場してきた一連の出来事の意味合いが反転してしまうように設計されている例です。
このように、伏線や布石を先に用意しておいて、トリックの真相を暴く(=異化する)ことで、起承転結の転を迎えるケースは、少なくありません。
また、異化によって「転」を迎える場合は、読み直したくなることも出てくるので。一粒で二度美味しいのような作品に、仕上げることが出来ます。
ちなみに、「エヴァンゲリオン」といった、一見するだけでは理解しにくい構成の作品においては、
読者側が理解しようと努める際に、あらゆる角度から作者のメッセージを探求するような行動に出る傾向がありますが。
これは「異化」の余地を残すことによって、いかようにも解釈できる回答のない問いという形式で、何度も読み直すことを促してきます。
こうすることによって、読み手によって物語のへ解釈が統一的ではなくなったり、何度読んでも読み足りない作品を創り出すこともできるようです。
また、新海誠作品である「秒速5センチメートル」といった作品においても、作品に触れた年齢によって感想が変化するように設計することも可能です。
これは、中高生の頃に感じる地理的な距離感と、大人になってから感じる距離感の違いが上手く活用されていると言えるでしょう。
中高生の頃に県外に想い人が引っ越してしまったとすれば、悲劇に他なりませんが。おとなになってからであれば、不便だけど通えばいいという風に解決策を講じることができるのです。
そう考えてみると、大人にとっての日常的風景が必ずしも、子供にとっての日常的風景とは一致しないことがわかります。
そういった意味では、子供の視点を借りた日常の『異化』と呼べるのではないでしょうか。
最後に、参考になった資料を掲載させていただきます。真野てんさん、ご協力ありがとうございました!>【小説の書き方】異化効果について 真野てん著(要チェック!)
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