主人公に感情移入させやすくする方法として、主人公以外のキャラクター全員に共通点を設けるという方法があります。
これは作品への没入度を上げる際に、有名かつ有効な手法といえるでしょう。
読者を物語の途中で離脱させないためには『居心地の良い世界観』を構築するか『気が散る要素を消しておく』といった工夫を行う必要があるでしょう。
現実世界の何倍も至福のひと時を堪能できる世界(空間)があれば、物語を読み進めていくのも楽ですよね。
その一方で、読者に不快な思いをさせたり、文章構成がわかり辛くて気が散るといった状況はできるだけ排除しておきたいものです。
そして、今回ご紹介する『主人公キャラ以外に共通点を作って没入度を上げる』という技術は、
どのキャラクターに感情移入するかという自由な選択を敢て廃し、主人公のみに絞って読者の気を散らさなくさせる工夫となっています。
具体例があったほうがわかりやすいと思うので、さっそく例をみていきたいのですが
一人称視点での活用法と三人称視点・群像劇型・多視点型といった作品での活用法には、結構違いが出てくるので一つずつ見ていくことにしましょう。
一人称視点での活用例
さて、最初に取り上げるのは「僕のヒーローアカデミア」という作品です。
作品を知らないという方もいらっしゃると思うので、概要を以下に貼って置きますね。
~あらすじ~
「架空(ゆめ)」は、現実に!これは、僕が最高のヒーローになるまでの物語だ。
ことの始まりは中国・軽慶市から発信された、「発光する赤児」が生まれたというニュース。以後各地で「超常」が発見され、原因も判然としないまま時は流れる――。
世界総人口の八割が何らかの特異体質である超人社会となった現在。
生まれ持った超常的な力“個性”を悪用する犯罪者・敵(ヴィラン)が増加の一途をたどる中、同じく“個性”を持つ者たちが“ヒーロー”として敵や災害に立ち向かい、人々を救(たす)ける社会が確立されていた。
かつて誰もが空想し憧れた“ヒーロー”。
それが現実となった世界で、ひとりの少年・緑谷 出久(みどりや・いずく/通称 デク)もヒーローになることを目標に、名だたるヒーローを多く輩出する雄英高校への入学を目指していた。
しかし、デクは総人口の二割にあたる、何の特異体質も持たない“無個性”な落ちこぼれだった…。
ある日、デクは自身が憧れてやまないヒーローと出会い、それを機に運命を大きく変えていくことになる。
友、師匠、ライバル、そして敵…。さまざまな人物、多くの試練と向き合いながら、デクは最高のヒーローになるべく成長していく。
引用元:Dアニメストア
僕のヒーローアカデミア(1) (ジャンプコミックス) [ 堀越耕平 ]
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この作品の主人公、緑谷 出久(みどりや・いずく/通称 デク)は、ほとんどの人が超能力を持っている社会に居るのに「超能力を持っていない少数派キャラクター」として位置づけられています。
なぜこのようなことをするのでしょうか?
せっかく超能力が使えるファンタジー作品の世界なのに、没入する先である主人公には超能力が使えないというのは見方を変えれば不自然だといえるでしょう。
実はこの工夫の裏には、一人称作品が抱えやすい「ある問題」が潜んでいるのです。
その「ある問題」とは、キャラクター自身が持つ個性と感情移入しやすくするための設定という二つの要素の間にはジレンマが起こりやすいというものです。
キャラクターを個性的にするためには、周囲のキャラクターと何かしら差をつける必要が出てきます。
そんなとき、「刀を常時腰に刺しているウェイトレス」だとか「地球侵略を目論む弱小なイカっ娘」といった特殊な属性を持たせることもあります。
その一方で、感情移入しやすいキャラクターとは、端的に言えば自分と共通点が多いキャラクターのことを指すのです。
これは、具体例をみるとわかりやすいです。怪我してないのに毎日絆創膏を一箱使い切らないと精神的に病みそうになるキャラが主人公だったとして、共感しやすくなるでしょうか。
読者は、「ああ、おれも毎日絆創膏を一箱使い切らないと寝付けないんだ!わかるわぁ」とは、まずならないと思います(笑)。
こういった理由で『キャラクター自身が持つ個性』と『感情移入しやすくするための設定』の間では、ジレンマが発生しやすいのです。
しかし、『キャラクター自身が持つ個性』を作る方法は、なにも強い癖をつけるだけではありません。
キャラクターに個性を付けるというのは、周囲との差を作ることです。そこで逆に主人公以外のキャラクター全員が特徴的すぎる状態にする、という切り替えしもできるのです。
それが冒頭でもご説明させていただいた『主人公以外のキャラクターに共通点を作って、主人公には強い癖をつけない』という方法なのです。
緑谷 出久は「超能力」を持っていることが半ば常識である世界においては異質な存在(個性的)であると同時に、読者(超能力の使えない人たち)と共通点を持ち合わせることができるのです。
意識してみるとわかるのですが、このテクニック自体はいろんな作品で頻繁に利用されていることがわかります。
「とある魔術の禁書目録」では主人公は無能力者ですし、まぁその実は違いますが。「ブラッククローバー」の主人公は魔法使いもの作品なのに、魔法が使えません。
また、異世界ファンタジー作品はかなりの確率でこの手法をとっているようです。
異世界に転生しただけで、自分以外に異世界人という共通点が勝手に発生するのですから非常に便利なんです。
ただ、もし三人称視点の作品や複数のキャラクターの感情を描写したい場合は逆効果になるテクニックなので注意しておきましょう。
あくまで主人公以外のキャラクターに感情移入させないことで読者の没入感を一時的に引き上げるいわば、諸刃の剣なのです。
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