さて、前回に引き続きいろんな作者さんの『うまい表現技法』や『執筆に関する工夫』について見ていこうと思います。
今回ご紹介する作品は、とよきち 先生の『木野美姫のままに』という作品です!
作品紹介
さっそくですが、以下が作品の概略です。
◆テーマ
『冬の∞』◆キャッチコピー
少年は、家出という名の旅にでる。◆作者コメント(もとい、あらすじ)
薄っぺらで、上っ面で、ニセモノめいたものが大嫌いな青。独り言の多い風変わりな美姫に誘われ、青は『メトロポ荘』で二泊三日の家出生活を送ることに。美姫の秘密とは? 『たしかなもの』とは?
長い旅のような短い家出の中で成長していく、とある少年の物語。
どこかしらで大小はあれども誰もが経験したようなこときっかけに家出を目論むこととなった少年(青)を中心として、少年が一回り成長してゆくまでを描いたジュブナイル作品となっています。
透明感のある風景描写と登場人物同士の人間味ある会話が特徴的で、冒頭から止まることなく読み進められる読みやすい作品になっていましたので読みやすさという点でも読んでみるとかなり参考になると思います。
また、今回のイベントではお題として『冬の○○』というテーマが与えられていました。その中で『冬の∞』というテーマで描かれた作品なのですが、タイトルの時点で「○○」と「∞」を掛けているところからも作者のユーモラスがみてとれました(意識してなかったらごめんなさいw)。
というわけで、早速参考にできそうなところを具体的にピックアップしていきましょう!
参考にしたいところ
キャラがいま考えていることが親近感に繋がる
※この節は、若干ネタバレ要素を含みますので作品を読んだ後に読むことをおすすめします。
よくキャラクターに欠点が必要だとか、短所や弱点があるといいというお話があります。ただ、この作品を読んでいて、それは極端な例なのではないかと感じました。
なぜ、そもそもキャラクターに対して欠点を持たせると良いのかというと、一般的には読者に親近感を与えることはできるからだとされています。
ただ、この親近感という言葉も奥が深いんですね。大きく二つの段階にわけられているようです。
ひとつは、主人公と自分の経験をうまくフィットさせるという意味での親近感です。もうひとつは、そもそもキャラクターが作中で人間味のある自然な振る舞いをしているという意味での親近感です。
本当に目を向けるべきは『欠点』という性質や設定ではなく、この『親近感』という部分にあるといえるでしょう。
ひとまず、主人公と自分の経験をうまくフィットさせるという意味での親近感についてみていくとしましょう。
この作品の主人公は、人間の二面性について嫌気がさしていました。特に物語の冒頭では、人の悪いところを浮かび上がらせる『二面性』という言葉ですが、
物語の終盤では、その二面性は誰にでも存在しているものであり、捉え方によっては良いところを浮かび上がらせる『二面性』にもなり得るということを知ります。
このように物語の冒頭と終盤におけるキャラクターの心情とその変化を先に設定しておくと、ストーリーを重視している作品はかなり描きやすくなるのですが、
冒頭での心情を誰しも一度くらいは経験しているようなものにすると、さらに効果的にストーリーを魅力的なものにできるでしょう。
欠点を活用する方法もそれはそれで重要ですが、この例のように誰しも経験しているような出来事というのは、必ずしもイコールで『欠点』だけというわけではないことに注意しておきましょう。
また、欠点や弱点・行動原理というのはそうそう変えられるものではありません。それに対して『いま思っていること』は変えやすいので、ストーリーを急速ではなく滑らかに進めることができるというメリットもあるでしょう。
さて、続いてそもそもキャラクターが作中で人間味のある自然な振る舞いをしているという意味での親近感(リアリティ)についてお話していこうと思います。
こちらについて、作中で用いられていた工夫としては登場人物同士の会話の中や心の声で「自分や相手の動作のことが、よくわからない(理解できない)」というニュアンスの場面が登場してきていることがあげられるでしょう。具体例は以下です。
「そう。あれを青が寂しそうに眺めてたから。私と少し似ているような気がしたの。だからかわからないけど、思わず声をかけてたわ。それで事情を知って、青には何か居場所が必要だと思ったの」
この部分の重要性について、もう少しわかりやすく説明してみますね。まず、登場人物たちはお互いの考え方や感情までは完璧に知っているわけはありませんよね。
しかし、作者はどのキャラクターがどの場面で何を思っているのかをすべて知っています。実は、この食い違いによって、不自然な振る舞いをつくってしまうことがあるんです。
なので、お互いをよく理解できていない描写を時々差し込むことにはキャラ同士のやり取りに出てくる不自然さを打ち消してくれる効果が期待できるでしょう。
あ、でもあんまりこれに頼りすぎると登場人物全員がコミュ障か痴呆老人になるという可能性も秘めているので、斜め上にある新しい扉にダイブしないようにご注意してくださいね♪
説明技法の使い分け
続いて、説明パートに施された工夫をみていきたいと思います。以下が該当の文章です。
バンガローはキャンプで泊まる時に使う簡易 的な施設らしい。青は家族と旅行でコテージに泊まったことはあったけれど、バンガローは初 めて見た。コテージとバンガローは外観こそ似てはいるが、コテージは家具家電などの調度品 が揃っている施設であるのに対して、バンガローは基本的に何も置いていないのが特徴なのだとか。
説明の仕方にもいろんな種類があって、それぞれに効果的な使いどころというものがあります。その一つとして、あげられるのがこういうような伝聞形の説明でしょう。
これは、主人公が知らなかったことや新しく感じ取ったことを説明する時に有効な説明方法になります。
特に人の成長などの感情の機微を捉えることを重要視している作品群では、主人公と共に『成長』を体感できるという意味で、説明なのに心情描写として威力を発揮できる説明形式だとおもいます。
他にも、以下のように台詞を地の文に組み込むことで説明形式を取ることもできます。
自立をしたかったの、と美姫は言った。彼女の家庭は両親との関係がうまくいっていないらしく、居心地が悪いのだという。近いうちに家をでることを決めて、その予行練習も兼ねてメトロポ荘を借りたと美姫は簡単に説明をした。
第三者の台詞を使って説明するのには限界があります。そういったときは、誰かの台詞を地の文に持ち込んで「説明をした」という行動描写で昇華してしまいましょう。
まとめ
今回も『自己投影のしやすさ』と『説明形式の使い分け』が上手な素晴らしい作品に出会うことが出来ました。
また、深くは説明できませんでしたが『マリンスノー』や『ブラキオサウルス』という語句が作中に登場してきています。
こういったあまり普段使うことの無い言葉があると、作品に個性が出やすいので良いと思います。
さらに、キャラクターがお互いの立場にたって相手の心情をお互いに程よく理解できない自然な状況を作るにはキャラクターを作りこみすぎないことも重要です。
最初こそ本気で設定をゴリゴリ決める必要はありますが、ある程度作りこんだらキャラクターを手放しにしてその動く先を信じてあげることも大切になりそうですね。
今回は、2018年の末に行われました『ミチル企画』というイベントに参加された作品の中から選評を行わせていただきました。
わたしも複数作品を読ませていただいて、作者さんそれぞれにある上手な所・苦手そうな所、みなさんがもっと上達させたいと思っているだろう所を肌で感じることができる貴重な体験となりました。
主催のミチル先生にも、この場をかりてお礼を申し上げたいと思います。ありがとうございました!
また、こんな記事があったらいいのになーとか、リクエストがあれば、是非ツイッターでリプかDMをくださると喜びます。それではまた会いましょう!ご精読ありがとうございました!ツイッターはこちらです。