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小説家のための日本語文法基礎 |初心者のための小説の書き方Lecture.5

 

つい、一文が長くなってしまって「文が長くて読みにくい」と指摘されている作家さんも多いのではないでしょうか。

 

というわけで、今回は知っておくと文の長さを操れるようになる技術をご紹介したいと思います。

 

さて、小学校や中学校で英語を習ったことがある方なら『基本五文型』というものを一度は目にしたことがあるのではないでしょうか?

 

◆英語の基本五文型◆

  • S(主語)+V(動詞)
  • 例文:私は寝る。
  • S(主語)+V(動詞)+C(形容詞)
  • 例文:私は可愛い。
  • S(主語)+V(動詞)+O(目的語)
  • 例文:私は机を動かした。
  • S(主語)+V(動詞)+O(目的語)+O(目的語)
  • 例文:私は上司に果たし状を送った。
  • S(主語)+V(動詞)+O(目的語)+C(形容詞)
  • 例文:私はぺんぎんが可愛いと思う。

 

「あ~、そんなのあったかも(忘れたとか言えない)」と思われる方も多いと思います。安心してください。

 

ここまでは、別に忘れていても大丈夫です(笑)

 

大切なのは、英語に構文があるように日本語にも『構文』と呼ばれる文の基本的な構造があるという点です。

 

日本語の構文には、長くなりやすい構文と短くなりやすい構文が存在しています。そして、それら構文を意識することで文の長さを自由に調節することができるようになるでしょう。

 

それでは、具体的に日本語にはどんな構文があるのか?どうすれば、1文を短く読みやすく推敲出来るのか?という視点から、例をみていきましょう!

 

日本語の構文

 

それでは日本語の構文にはどのようなものがあるのでしょうか?日本語の構文は、実は英語よりも少なく4パターンしかありません。

 

『単文』『重文』『複文』『重複分』の4パターンです。

 

それでは、それぞれの構文について解説するとともに実際に小説を一緒に推敲していくことにしましょう!

 

単文

 

単文とは、述語が一つの文のことです。もっともシンプルな文構造ですね。

例文:私は小説を投稿する。

※例文では『投稿する』が動詞で述語に相当しています。

 

単文は最もシンプルで読みやすい文構造です。したがって、文章の中に単文が多いほど、文章は読みやすくなる傾向があります。

 

また、日本語と英語を比較すると決定的に違う点があります。英語では主語を原則省略していないのに対し、日本語では主語を省略し放題になっている点です。

 

そのため、英語は『主語が力を持っている文章』。日本語は『述語が力を持っている文章』と言われています。

 

しかし、主語の省略は思わぬ誤認を引き起こします。くどくないのであれば、主語は省略しない方が良いこともあるので注意したいところですね。

▼推敲例

修正前:一階から聞こえてくる物音が私の脳天を揺らした。そして、緩慢な動きで布団から起き上がる。

修正後:一階から聞こえてくる物音が私の脳天を揺らした。そして、私は緩慢な動きで布団から起き上がる。

 

重文

 

重文(じゅうぶん)とは、単文が接続詞によって結合された文のことです。

例文:私は小説が好きで、推敲に没頭している。

※「私は小説が好きだ」と「私は推敲に没頭している」の2つの文が繋がっています。

 

重文は簡単に2つの単文に分解することができます。読みにくいといわれた際は、まず重文を分解して単文にしてみましょう!

▼推敲例

修正前:枕もとにある赤色のデジタル時計を見ると、既に午前九時を過ぎていた。

修正後:枕もとにある赤色のデジタル時計を見た。既に午前九時を過ぎている。

 

複文

 

複文(ふくぶん)とは、単文の中に単文が組み込まれている文のことです。

例文:台所に携帯を忘れていた彼は、その着信音に気付かなかった。

※例文では、「彼は、その着信音に気付かなかった」という単文に「台所に携帯を忘れていた」という単文が組み込まれています。

 

文を2つ以上の文に分解できそうなら、重文以外は複文とみなして概ね間違いではないでしょう。また、重文は複文の一種とも言われているようです。

 

なので、文に述語が二つ以外あれば複文だと判断しましょう。

 

構文の中では、複文が最も複雑で主に四種類のパターンがあるとされています。

 

1.名詞を修飾する連体修飾詞が組み込まれている。

 

例文:傍らに置いてあるスマホがピロンと鳴った。

「スマホ」という名詞を「傍らに置いてある」という単文が修飾する形で組み込まれています。

 

こういったケースでは、片方の文がもう片方の文を飾っている(修飾している)だけなので不必要な修飾となっている場合は、思い切って消しましょう。くどい文章になってしまいます。

▼推敲例

修正前:おんぼろな家のおんぼろな扉を開けた。

修正後:私はおんぼろな扉を開けた。

 

2.名詞を代替する単文が組み込まれている。

 

例文:何より気になったのは、その声が、何故か胸の苦しくなるような響きをしていたことだった。

こちらは「何より気になった」という単文が、名詞句を作る助詞「の」と組み合わさって主語に組み込まれているケースですね。

 

複文は、なかなかシンプルに単文へ分解できないこともあります。そういうときは、伝えたいことをひとつに絞りましょう。

▼推敲例

修正前:何より気になったのは、その声が、何故か胸の苦しくなるような響きをしていたことだった。

修正パターン①:その声は、私の胸を締め付ける。(その声を聞いて、私がどう思ったのかを描く)

修正パターン②:その声は、何故か胸を苦しくするような響きだった。それだけは、はっきりと覚えている。

 

上の修正前の文には「何より気になった」、「何故か胸が苦しくなる」と「その声が響いていた」の三つの単文が組み込まれています。

 

さらに「何より気になったのは、~だった」は、単独では意味をなさない文になってしまうので、単純に3つの単文へ分解すると意味のない文が出てきてしまいます。

 

そういう時は、修正パターン①のように伝えたいことを一つに絞ることができます。

 

もし「気になった」という部分を強調したいのであれば、修正パターン②のように、別文で追記しましょう。

 

3.心の声や他者の発言を引用し、単文に組み込まれている。

 

例文:確かに私は、いっそ独りでいたかったと思った。

こちらは「確かに私は思った」という単文の中に、内心の台詞引用「いっそ独りでいたかった」という単文が組み込まれているのが伺えます。

 

こういったケースも簡単に単文へ分解することができます。ただし、代名詞を使う場合は、何をさしているのか必ずわかるようになっていることが理想です。

▼推敲例

修正前:確かに私は、いっそ独りでいたかったと思った。

修正後:(いっそ独りでいたかったーー)確かに私は、そう思った。

 

4.副詞節として機能する単文が組み込まれているパターン

 

例文:「もし私が眠ってしまったら、この世界は終わってしまうんですか?」

「私が眠ってしまった」という単文が「この世界は終わってしまうんですか?」という単文が発生する条件となって修飾しているパターンです。

※条件の他にも、原因や目的、理由を表す単文が組み込まれていることもあります。

・具体例:

  • 時間的な条件文)「~のとき、~した」
  • 条件文)「もし~なら、~だ」
  • 理由文)「~なので、~した」
  • 目的文)「~したいから、~した」
  • 原因文)「~すると、~し始めた」

 

これらのケースは単文に分解しにくいのですが、「倒置法」を用いることで分解できます

▼推敲例

修正前:もし私が眠ってしまったら、この世界は終わってしまうんですか?

修正後:この世界は終わってしまうんですか? もし私が眠ってしまったら。

 

さて、複文のパターンは以上です。

 

そろそろ頭が働かなくなってきたという方も安心してください(笑)。ここまでは、特に覚える必要はありません。

 

とりあえず、述語が文中に二つあれば、複文なんだな~くらいわかっていれば十分です。

 

単文は読みやすく、重文は簡単に単文に置き換えることができるので、読者は非常に楽に読み進めることができます。

 

その一方で、一文が長い人に共通するのは複文を多用していることです。複文を単文に直せば、文は短くなります。逆に一文が短すぎる人は、複文を作ると一文を長くできます。

 

重複文

 

重複分は、複文かつ重文である文のことです。わかりにくいので例をあげますね。

重文:雨が降って、風が吹いていた。

複文:傘を差すか迷う程の雨が降っていた。

重複文:傘を差すか迷う程の雨が降っていて、風も吹いていた。

 

基本的に、推敲の方法は複文・重文と同様です。とにかく、単文に直すのが最もシンプルに読みやすくする秘訣になるでしょう。

 

▼推敲例

修正前:私の邪魔をするのを憚っていたのか、それとも優さんも描いていく過程に魅入られていたのか、それまでは何も口にしなかったけれど、時計が7時を回ったころ、流石に心配してくれたのか、彼が声をかけてきた。

『凛さん。少し休憩したほうがいいんじゃないかな』

 

修正後:私に憚っていたのだろうか。それとも、優さんも描いていく過程に魅入られていたのだろうか。しばらく何も口にしないでいると、時計は7時を回っていた。

『凛さん。少し休憩したほうがいいんじゃないかな』

流石に心配してくれたのだろうか。彼が声をかけてきた。

 

まとめ

 

少し長くなりましたが、一文の長さを左右するのは文章中における単文の数です。単文が多いほど、一文が短い文章になります。

 

そして、短い文章は主語と述語が近い位置になりがちなので、結果的に単文が多ければ読みやすい文章になりやすい傾向があります。

 

ただし、小説は比喩などの表現技法で読者を魅了していく性質も持ち合わせています。単文は読みやすい代わりに、深みのある表現はできません。

 

したがって、ただ単文にすればいいというわけではなく、単文と複文、重文を使い分けることで文の長さを調節できるというくらいに捉えておくと良いでしょう。

≫ Lecture.6 推敲とは?「てにをは」とは?
≪ Lecture.4 引き込まれる文章にするために

 

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