作家の味方

Project Creator's Ally

天宮結衣のQ.E.D. ~幸せのクオリア~ – 第二十八章:私の正義

説明ページに戻る

 

第四十八節 私の正義

業務用のデスクに備え付けられている灰白色の固定電話が、署内に着信音を鳴り響かせていた。赤く点滅している内線のマークを押下する。

 

「はい。東雲です」

 

「東雲くんか。良かった。ちょいと君に捜査協力して欲しい案件があるんだが、今日中に頼めないかね?」

 

私は、左腕に付けていた腕時計へ目を配ると。時計は、私に「用事があるから無理!」と抗議してきていた。今日は、大切な妹が二十歳になる誕生日なのだ。

 

「すみません。今日は、ちょっと。明日で良ければ、対応できますので、それでいかがですか?」

 

昔の私からすれば、きっと断ることなんてありえない話だっただろう。私は正義のヒーローに憧れて警察になった。この一瞬の間にも救いを求めている声はあるはずなのだ。だが、私は七年前のとある誘拐事件から学んだことがあった。

 

私は受話器を元の位置に戻すと、紫色の腰掛けに深く掛けてから用事を済ませ、帰りがけの準備を始めた。

 

正義というのは、悪を倒すことばかりが目立っているけれど、実のところ人々の幸福を守っていくということなのではないか、と思ったのだ。

 

当時、私は誘拐犯容疑として追っていた詠井新の行いを止めようとしか考えていなかった。警察としては、いまだに間違っていたことではなかったと思う。

 

けれど、それは現場にいる誰もが求めていた展開ではなかったようにも思えた。詠井が天宮を置いて去る最中、私は彼が病気の症状で事故を起こすかもしれないと思い。

 

咄嗟に、ラッコの髪飾りの形をした発振器が示すGPSの位置が動いていることに気づいた。急ぎ、救急車とパトカーを向かわせてはいたが、少しばかり遅かった。

 

当時、私はどうにか彼らを救いたいとすら考えていたのだ。

 

私が正義のヒーローになりたいと思っていたのは、人の幸福を守りたいという本音があったからこそだったのだ。とりわけ、私が最も愛している妹も幸福に出来なくて、なにが正義だというのだ。

 

夢は必死に追い求めなければ、実現できず。かといって、夢を追い求めて必死になると、外野からは醜く嫌煙され、大切なもの諸共みえなくなってしまう。過去に私が過ってしまったように。

 

私は通勤カバンを持ち、スカートについていたホコリを軽めにはたき落とすと、重たくて冷たい署の扉を開いて外に出た。

 

冬の清らかな空気が私を迎える。でも、その寒さへの感覚などすぐに消し飛んでしまうくらい。今の私には、考えるべきことがあった。

 

「誕生日プレゼントは、何が良い? お姉ちゃん奮発しちゃうよー!」

 

「お姉ちゃん! 恋結のモアイ像が今の流行りらしいよ!」

 

そこには、まだ丈もないが背伸びをするほど体を大きくして、私のことを待ってくれていた妹の笑顔が映っていた。

 

[第二十七章へ]  ≪ ー・ー ≫  [続きを読む]

 

[講座説明に戻る]

コメントを書き込む

*

CAPTCHA


本気で小説家を目指す方向け!



Return Top