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天宮結衣のQ.E.D. ~幸せのクオリア~ – 第二十七章:夢の賞味期限

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第四十七節 夢の賞味期限

僕は、フロントガラスにクッキリと切り取られていた雲混じりの夕焼け空に向かってただひたすらに直進していた。

 

赤黄青の3つ目を持つ妖怪の前に、頼りない音を吐き出して続けていたオンボロ車の足を止める。ふと、助手席に放られていた茶色のウォンバットスーツに左手をそっと触れてみた。

 

そこには微かだけれど、誰かが居た温もりがあった。細やかな毛並みたちが稲穂のように頭を下げて、ふかふかとした感触を生み出している。

 

細めた視界に入っているものは、なんの変哲もない、ただ点滅しているだけの黄色の信号と夏の夕焼けなのだけれど、なぜだろうか。

 

結衣の笑顔が、結衣の体温が、結衣と描きたかった物語たちが、画廊のように眼球の根本あたりで巡って、次第に霞んで見えなくなっていく。

 

僕は結衣に、幸せに生きてほしいと思っていた。そんなお節介なんか妬かなくても、人間は強い。たとえ僕が何をしなかったとしても、きっと彼女なら幸せを自分の手で掴んでくれるに違いないとわかっていた。

 

それでも、僕は彼女に現実を突きつけることができなかった。僕が死ぬことを知って悲しまれることよりも、死ぬことを悟られず、勧善懲悪な裏切り者だったのだと、嫌悪感を抱かれたほうがマシだと、そう思っていたからだ。

 

山頂にスマートフォンを埋める前、僕は友達追加通知が来ているのに気づいた。桜木さんという、その人から来ていた真相を目の当たりにしたときは正直驚いたけれど、なんだか自然と納得できてしまっていた。夢の賞味期限が来たのだろう、と。

 

結局のところ、結衣との約束は守れそうもなかった。本当に申し訳ない。それでも、「幸せ」を見つけることだけなら僕にも出来た。

 

目標に向かい、ただひたすら駆け続け、人のために未知を紡ぎ出す、そんな創作者でいることだった。そして、この物語にも終わりは容赦なく訪れる。

 

信号は赤へ、晴れた前方はどこまでも、まるで永久に続いているようにさえ思えた。アクセルを踏み込んだ瞬間。

 

それは、とても甲高く波及して、僕の全身を貫いていた。

 

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