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天宮結衣のQ.E.D. ~幸せのクオリア~ – 第二十四章:起承「転」結

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第四十二節 物語の終わり

数時間張りきっていた結衣も、ひとしきり曲の形ができあがってきたことを確認すると、水平線に沈んでゆくオレンジ色の太陽と共に、心の糸を解いていた。目をつむって、すやすやと軽い呼吸音を立てている。

 

僕は、この旅の終わり方を決める頃合いに来ていた。人生というものには必ず終わりがあるように、物語にも必ず終わりというものは必要なのだろうか。

 

僕は昔見たテレビ番組でやっていた興味深い話を手探りで思い出す。脳科学の見地から人を幸せにしようと考えた場合、解明できているだけで、およそ四つの物質の分泌量を制御すると良いらしい。

 

その一つに、成長が人の脳に生み出す「ドーパミン」という分泌物質がある。「ドーパミン」というと、何かの薬品名のように感じるが、なんということはない。有り体に言えば、ただの達成感のようなものだ。

 

人は、成長に喜びを感じる。例え、とてつもない額の大金が運良く当せんしたとしても、その喜びは生涯に渡って続くわけではない。

 

ドーパミンという物質は、あくまで変化に反応する。悩みが解消された、出来なかったことを必死に努力して出来るようになった、好きな人との関係が知り合いから友達に昇格した。そういったものに、人間は喜びを感じるのだ。

 

いくら甘い物が好きな人でも、甘いものばかりを食べていると、それは次第に苦痛に変わっていく。僕は、そういう意味でも物語には終わりが必要だと思っていた。

 

僕は、そっと運転席のドアを開ける。そこには堀の深い顔立ちが特徴的な大岩が、待ってました、と言いたげな顔をして仁王立ちしていた。昨日の山中で、連絡をして待ち合わせしておいたのだ。

 

「よっ。ビッグ、久しぶり、って、まだそんなに経ってないか」

 

いろいろありすぎて、時間感覚が完全に麻痺している。僕は、握っていたハンドルから左手を外すと、力ない表情のまま友人の大岩に手を振ってみせた。

 

結衣はすぐ近くにいる大男の存在に気がつくことなく、すやすやと目をつむっている。

 

僕は、結衣から薫る桜にも桃にも似たやわらかで名残惜しい香りを手繰り寄せると、彼女のたしかな存在感を確かめるように、起こさないように少しだけ優しく抱きしめた後、大岩に目をくべた。

 

「大岩、結衣を頼んだよ」

 

第四十三節 反転した世界

「なぜ、お前が二人の携帯を持っていたんだ」

 

私は、桜木を重要参考人として拘束すると、付近の取り調べ室を借りて堪えきれず単刀直入に問いただしていた。彼女の顔色を伺うに、何かを隠しているとしか思えない。

 

「隠していることがあるなら、今のうちに言ったほうが罪は軽いぞ」

 

桜木は、わずかながら強張らせた表情で引きつった笑顔を向けてくる。

 

「お水を頂けないかしら? こういう体験は、始めてなので」

 

背後に立っていた巡査に水の手配を手で合図する。どうやら、彼女は簡単に口を割るつもりはないようだ。私は、詠井青年の写真を机の上に出して、彼女の席へ向けてスライドさせてみた。

 

「詠井 新。知り合いだな?」

 

「えぇ、確か患者さんの一人に居ましたね。電光掲示板を見て独りでにニヤニヤしてた気味の悪い患者さんです」

 

水をお盆に乗せて持ってきた有能な入真巡査は、私に水の入ったカップを手渡すと何やら耳元に手を当ててきた。

 

「桜木の携帯から、詠井への連絡があったのが確認できました。資料はこちらです」

 

桜木と詠井の会話履歴を印刷した紙を桜木にひらひらと見せつけると、桜木は項垂れるように降参ポーズをとってみせた。

 

「全部お見通しってことね。そうよ。お察しの通り、これは医療誤診の隠蔽工作だわ」

 

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