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天宮結衣のQ.E.D. ~幸せのクオリア~ – 第十七章:本当にやりたいこと

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第二十八節 暴かれた不審点

深夜に事件を起こせば、捜査が進みにくく成るというのは迷信だ。むしろ、大学病院の周辺にあった監視カメラが捉えていた車の数が少なかった分だけ、容疑者を固めるのは難しくなかった。

 

犯行が行われたと思われる時刻、つまり午前零時から零時半頃にかけて監視カメラの映像に捉えられていた車は、全部で二十八台。これらに関しては、ナンバーもわかっている。

 

絞り込むのに少し時間はかかったけれど、検討すべき容疑者は三人しかいなかった。

 

「容疑者は、三人です。模合大学に通っている大学院生の詠井新、二十代、男性。事件現場付近に住んでいる主婦、野村さやか、三十代、女性。そして、志波大学病院に勤めている看護師、桜木敏子、二十代、女性」

 

これだけを見てしまえば、桜木敏子が怪しすぎて仕方がない。ただ、長年の経験からなのだろうか。やはり、昼食前になんとなく引っかかっていたものの正体が段々と見えてきた気がした。

 

そもそも、桜木が本当に犯人だとすれば、もう少しやりようがあったのではないかというところだ。当直の看護師が患者の見回りをする時間くらい、自分の仕事なのだから把握していたはずなのだ。

 

対して「野村さやか」を事情聴取したところ、その日はピクニックの帰りで、子供二人と夫の計4人家族で行動していた。とても見ず知らずの少女を誘拐または保護しようとは思えない状況。

 

家族ぐるみの犯行だとすれば、それはもはや狂気じみた殺人家族である。念の為、同僚に家の中へ営業を装い潜入してもらってもみたが、特に異常は見つけられなかった。

 

「詠井新と天宮結衣に接点は全く無かったのか?」

 

捜査本部の協力が途絶されてしまったことで、大分時間をかけてしまったようだったが、私は珈琲を啜ると事件の匂いを嗅ぎつけていた。

 

時計の長針と短針は、垂直な一直線を作り出している。もう午後六時だ。はやく帰らないと、妹のご飯が抜きになってしまう。

 

私は、写真立てに飾っていた妹の笑顔にほっと一息付くと、捜査をもう少しだけ続けることにした。

 

第二十九節 人生=物語?

現実とファンタジーの世界というのは、全く違うもののように思えて、実は多くの共通点を持っている。過去から見れば、今の科学技術はファンタジーに他ならないし、逆に、将来から見た現在だって美化されたファンタジーになることだってあるのだ。

 

そして、物語は時代によって形式こそ変化はするものの、人を幾度となく感動させてきた。幸せにしてきたのだ。そのことを踏まえれば、これ程までに幸福な人生を設計するにあたって、参考となる資料は他に無いのではないだろうか。

 

僕は白くて薄い借り物のタオルを頭に乗せると、旅館に備え付けられていた温泉で一人、冷えた身体を暖めながら考え事をしていた。

 

物語には大きく分けて二種類の型というものがある。「ノヴェル型」と呼ばれるものと、「ロマン型」と呼ばれるものだ。人生と物語を重ねて考えるとすれば、人生には二つのタイプの終わり方があるというわけだ。

 

「ノヴェル型」というのは日常の中で重大な事件が起こり、それをなんとか苦労して解決し、主人公たちが日常へと戻るまでを描いた形式を取る物語のことだ。ミステリー小説なんかは、ほとんどがこちらになる。

 

一方で、「ロマン型」というのは、現実にうまく適応できずにいた主人公が、紆余曲折を経て、落ち着く場所にたどり着くまでを描く形式を取る物語のことである。コンプレックスを持っている主人公が、それを克服するまでの物語なんかがこちらというわけだ。

 

両者に共通していることは、人生において何かしらの「やりたいこと」があって、それを解決していくというシンプルなプロセスなのだ。その結果が、受験合格や事件解決といった事実に基づく事柄なのか、言語化しにくい自らの精神状態に基づく事柄なのかの違いしかない。

 

天宮との旅路で僕が抱え込んでいた「やりたいこと」は、彼女を幸せに導いてあげたいというものだった。しかし、本当にこれで良いのだろうか?

 

仮に、警察が主人公の物語であったとすれば事件が解決して、めでたしめでたしと言えるのかもしれない。ただ、僕にとっては何もめでたくない。

 

最悪の場合、そうなってしまったとすれば、それはもうどうしようもないのだけれど。ただ、個人の物語の終わり方が喧嘩してしまうというのは、なにも警察と僕の間だけで起こる事象ではない。

 

僕と天宮の間にだって、同様の問題が起こっているかもしれないのだ。僕は、彼女の本当にやりたいことを邪魔しているだけなのではないだろうか?

 

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