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天宮結衣のQ.E.D. ~幸せのクオリア~ – 第十六章:転機

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第二十五節 打上花火

私は、遊園地に来たことで幸せの音色を手に入れる事ができたような気がしていた。辺りは既に暗くなっていて、浴衣姿の来園者の群れと共に私達を闇夜に取り込んだ風景画を生み出している。

 

お気に入りの曲というのは、呆れるくらいリピート再生していたか思うと、ふとした拍子に「もう聞き飽きた」となってしまう。

 

まぁ、それはそれで「そういうものだ」と言われてしまえば、それまでなのだけれど。それであれば、何故毎年のように見聞きしているはずの花火には飽きるという感覚がないのだろうか?

 

「おっ、はじまったぞ! 天宮!」

 

くせっ毛の短髪に整った眉、私より頭一つ分くらい大きい中肉中背の青年は子供のように、その目を輝かせて夜空のキャンバスへと向けていた。

 

あぁ、と私はなんだか合点がいった。彼と見るこの景色は、花火は、私にとってこれが初めてなのだ。誰と見る花火なのか、誰と過ごした瞬間だったのか。それが大切なのだ。やっぱり、私にとっての幸せは間違えなくこの場所にあった。

 

人が楽しむために用意された遊園地には、人を幸せにする仕掛けが所狭しとひしめき合っていた。普段、着ることもないであろう衣服を売っている仮装専門店。ふわふわとした、心地の良い感触を口元にもたらしてくれる綿飴の屋台。暗がりを彩るイルミネーションたち。私の目には、そのすべてが煌めいてみえていた。

 

私は、新さんの右手に手を伸ばそうとしてみたけれど、その手をそっと止めた。この幸せな時間は、きっとすぐにどこかへ消えてしまう。そう思うと、とても寂しかった。

 

結局のところ、どれだけ周到な準備をしてくれていたとしても、感動を感じ取る側の心に受け入れるだけの器量がないのであれば、感動というものは成り立たないのではないだろうか。

 

笛が吹くような音が鳴る。大きな音が鳴り響いた。広大な夜空には、一瞬で儚く散りゆく打ち上げ花火の束が滲んで、映っていた。

 

第二十六節 急転直下

「はぁ?」

 

昼食の蕎麦を食べ終わった私は、入真巡査が取った内線で明らかになった追加情報を聞いて思わず声を漏らしてしまった。

 

「つまり、これで天宮結衣は特異行方不明者ではなくなったということです」

 

特異行方不明者というのは、警察が捜索すべき特定の条件を満たした行方不明者のことを指すということはわかっている。問題はそこではない。私は、彼が何を言っているのか一瞬わけがわからなくなってしまった。つまり、天宮結衣は警察が捜索する必要はないということらしい。

 

「いやいや、天宮結衣の件は明らかに事件性があるはずだ。いくら彼女が逃げ出した動機や証拠が揃っていたとしても、彼女は未成年で、病人なんだぞ? 脱走後に事件に巻き込まれている可能性だってありえるだろう」

 

入真巡査は、頭を掻きながらも淡々と事情を述べる。

 

「ええ、本来ならそうなんですが、彼女の両親宛に連絡があったようでして。端的に言えば、『探さないでください』という旨の内容だったようです」

 

更に驚いたことに、彼女の両親も少女の意志を優先しようと言っているのだそうだ。参った。犯人はわかっているし、事件性がないとはまだ言い切れない。なにより、このままにしていて本当に良いのだろうか?このままでは、彼女は間違いなく死ぬことになる。そんなことがあってはならない。

 

「入真巡査、周辺の監視カメラに映っていたドライバーの洗い出しは既に終わっているか?」

 

彼は怪訝そうな顔をして「は、はい」とだけ答える。上出来だ。

 

「捜索が打ち切られていたとしても、出来上がった資料に目を通すのは上司として大切な務めだよな」

 

私はそういうと、捜査本部への足取りを早めた。

 

第二十七節 創造主は苦悩する

僕は、彼女のことを本気で幸せにしてあげたいと思っていた。でも、これが果たして愛情なのか、それとも単なる優しさだったのかわからないでいた。

 

僕は人の笑顔を見るのが昔から好きだった。面白い作品を書けば、その分だけ多くの人が感動してくれて、次回作や次の章を待ち遠しく待ってくれる。

 

でも、そんな期待に答えられなかったとき、心は強く締め上げられるような感覚に晒されることも同時に知っていた。

 

だからこそ、勝手な期待を抱かせることには細心の注意を払うようにしていたのだけれど。今回は、そんな余裕なんて持ち合わせていなかった。

 

本音を言ってしまえば、僕は天宮と一緒にいれば幸せを手にすることができるような気がしていた。彼女を期待させるどころか、僕のほうが期待してしまっていたのだ。

 

深青色に染め上げられていた大空に、散りゆく朱の大輪を映していた彼女の大きな瞳は、少し潤んでいるように見えた。彼女の手を握る。

 

鼓動が跳ね上がった。振り返った彼女の目をしっかりと見つめて、僕は人生で初めて告白というものをした。

 

「天宮さん。僕はどうやら君のことが好きみたいだ。もう少しだけ付き合ってもらってもいい……かな?」

 

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