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天宮結衣のQ.E.D. ~幸せのクオリア~ – 第十四章:恋の行方

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第二十一節 幸せの在処

中学時代から小説の執筆活動をしていた僕は、筆が止まったときは決まって書きたい場面に登場してくる舞台へ足を運ぶようにしていた。僕には作曲も小説と似たようなものなのかはわからなかったけれど、人を幸せにする曲を作りたいのであれば、自分自身がどうやったら幸せになるのかを知っておくことは表現者にとって大切なことだと思う。

 

そういうわけで、僕は「幸せを生み出す最高のロケーションの代表格」といえるであろう遊園地に天宮を連れて来ていた。試着室のカーテンが開くと、丈の長い艶めく黒髪が似合う女子高生が、手の甲を見せて変なポーズをとっていた。

 

「ウォンバットだぞー! こわいか!」

 

などと供述している。僕は、ウォンバットの着ぐるみに身を包んでいた天宮氏に力なくチョップする。少し動くだけで頭に付けているピンク色の長いうさ耳が大きく振動して、絶妙にムカつく。

 

「いやね、ウォンバットは怖くないよ?」

 

「うんうん。ウォンバットは、可愛いもんね!」

 

いや、そういうことではない。逃亡犯といえば、変装。確かに、そうつぶやいたのは僕の口だったかもしれないけれど、これは変装というよりは仮装だ。

 

まぁ、着ぐるみがよほど気に入っているらしいことは微笑ましい事この上ないのだが今の僕はどこからどうみても変質者にしかみえない。これでは、逆効果だ。女性店員の白い視線が、僕にクリティカルヒットする。

 

「それより、なんで僕がうさ耳メイド服なんだ? 逆だよね? 間違えてるよねこれ!?」

 

兼ねてからツッコミたくて、うずうずしていたものを天宮にぶつけてみたのは良いものの、彼女はただ楽しそうにあどけない頬を紅潮させてみせると、僕の右手を力強く引いてスキップするようにレジへと誘った。

 

コーヒーの旨さを感じるのは舌の細胞が破壊されているからだと聞いたことがある。子供の頃は、苦いだけで美味しさを感じられなかった珈琲でも、大人になれば美味しく感じられるようになるのは、このカラクリのせいだ。

 

人間の順応性というのは末恐ろしいもので、僕はあどけない少女としか思っていなかった彼女の屈託のない笑みに人間としてではなく、異性としての情もいつしか沸かせてしまっていたらしい。

 

彼女といると、見えていなかった幸せの存在を思い出すことができる気がしたのだ。

 

第二十二節 東雲警部補の捜査ファイル

事件が発生した午前零時ごろからは、およそ八時間が経過していた。先に現場へ急行していた部下によると、事件発生当時、病院内のカメラは捜索対象とみられる患者「天宮結衣」の姿をはっきりと写し出していたらしい。

 

その後、病院の非常階段に通ずる扉を抉じ開けて、駆け下りた痕跡も見つかっている。なにより、脱走に用いられたと思われる土の詰まったカラーコーンが、彼女自らの意思で病院を逃げ出した物証となっていた。

 

予想通りといえば、予想通りの結論が導き出されただけだったのだけれど、肝心な少女の足取りを追う所については、かなり難航していた。最も都合の良い位置にあった監視カメラが何者かの手によって破損させられていたからだ。

 

話を聞いた限りであれば、「逃げ出した少女が監視カメラを破壊したのではないか?」という仮説も立てられなくはなかったが、彼女に監視カメラを壊すメリットは果たして本当にあったのだろうか?

 

もし彼女が、その身一つで病院からの脱出を試みたとするのであれば、監視カメラ一つを壊したところで町中にある監視カメラが彼女の姿を捉えるくらいはできるはずだ。ただ、驚いたことに近隣に設置されていた、どの監視カメラにも少女の走る姿や、歩く姿は映されていなかった。偶然ということもあるのかもしれないが、協力者が居たと考えたほうが自然ではないだろうか。

 

私は、捜査ファイルに挟まれていた捜索対象の写真を見てなんともいえない気持ちになった。まだ、幼さの残るどこにでもいそうな可愛らしい少女だ。もし私の妹が少女のような運命を辿るとしたら、私は犯人と同様の行動にでたのだろうか。私は、この犯人を裁くべき罪を語るほどの熱量を持てずに居た。

 

しかし、例え彼女に嫌われてしまうとしても、バッドエンドへ誘う悪役になったとしても、私は彼女を探し出して手術を受けさせることを正義とすべき立場にいるのだ。

 

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