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天宮結衣のQ.E.D. ~幸せのクオリア~ – 第十三章:逃走バトル

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第十九節 はじめての謀略

僕が天宮結衣と遭遇したのは、つい昨日の話だった。仮に僕が家出少女を捜索する警察官の立場だとすれば、まずは事件性についてハッキリとさせておきたいと考えるだろう。悪質な事件に巻き込まれている可能性が高いともなれば、捜査対象の優先度と緊急度は高くなる。

 

警察というのは当然ながら捜査のプロフェッショナルだ。その上、組織的な戦略も打つことができる。僕のような素人がいくら頭を捻って撒いたところで、あらゆるものがいつしか痕跡として残り、最終的には追い詰められることになるだろう。本気にさせてしまえば、なおさらだ。

 

僕としては、この事件を優先的に処理するべき案件だと判断されるのは、なんとしてでも阻止したい。僕は、まだ天宮を救いきれてはいないのだから。

 

それであれば、まずは本気を出せなくしてしまえばいい。牙を抜いてしまうということだ。現に、今回の逃走劇は本人の意思によるものなのだし、本人の意思が何らかの方法で示されれば、事件性は半減するはずだ。

 

もちろん、誘拐犯からの指示があったのではないかとか、誘拐犯によるコンタクトではないかという線も残るだろうが。

 

ただ、そこに関しても、こちらには有利な状況証拠が残されていた。彼女は、すでに一度病院からの脱走を試み失敗している。本人の意思の一部が、信憑性を帯びる要素となることは間違いないだろう。

 

それでも捜査が続く可能性は極めて高い。ただ、それは彼女の意思に反して行動するということを意味している。如何にプロとはいえ、そこに隙きを作り出すことくらいはできるだろう。それがたとえ十分程度の時間稼ぎにくらいしかならなかったとしても。

 

そうはいっても、知覚し得ない追っ手の恐怖に怯えてすっかり憔悴しきっていたのだと思う。でなければ、遊園地に到着した僕たちはこんな凶悪な行為に手を染めることにはならなかったはずなのだ。

 

僕は遊園地内にあったショップの試着室を出ると、自身の纏っていたメイド服とうさ耳へ交互に視線を流し込んでくる天宮に、こう告げられた。

 

「とても、似合ってますね!」

 

子供の夢をぶち壊す。25歳無職前科持ちの妖怪ラビットの完成だ、ぴょん……。

 

第二十節 東雲警部補とターミナルケア

「東雲警部補、ここまでが今回の事件の概要となります」

 

瀬田警察署に出勤していた私、東雲瑞葉は部下数人と、その一員である入真巡査のまとめくれたホワイトボードにある情報にじっくりと目を這わせていた。

 

事の発端は、こうだ。今日の朝七時頃、この近辺にある志波大学病院で入院中だった少女が脱走したから捜索して欲しいとの通報があったのだ。

 

通常、この手の捜査に警察が安々とリソースを割くことはあまりないのだけれど、今回は少しわけが違う。なにせ、逃げ出した少女は一週間後に手術を控えている身なのだ。しかも、その手術を受けなければ生命の危機に瀕することになる可能性が高いらしい。最悪だ。

 

いや、そうではないか。だからこそ、彼女は病院を逃げ出したのかもしれない。介護や医療関係者でもない限り、縁遠いものだと思っていたが、これがまさに『尊厳死』や終末期医療(ターミナルケア)といった世紀の禅問答の一部なのかもしれない。遺憾ながら、私はこの事件の概要を聞いた時点で捜査から手を引きたいとすら思ってしまっていた。

 

コミックやアニメの中では、悪を薙ぎ倒し皆の信じる正義の元に人を救いだすヒーローの姿というのは、観る者たちを魅了し、虜にする。私も警察官になれば、世の中で悪事を働く外道な人間たちをバッタバッタとなぎ倒していくクールな女性ヒーローに成ることができると思っていたが、それは半分正解で半分は不正解だった。

 

少し話がそれてしまうが、物語における登場人物には、二種類の描き方があると聞いたことがある。一つ目は「平面的人物」だ。「平面的人物」とは、いつも決まって同じ考えを持ち、同じ行動をする人物像のことを指す。勧善懲悪な犯罪者なんていうのは、作中では「平面的人物」として描かれているということだ。

 

もう一つは、「立体的人物」だ。こちらは平面的人物ではない人物のことを指すというのが最も端的な説明になるだろう。立体的人物の考え方は物語の中で変化していくし、それに伴って行動も変えていく。いわば、リアルな人物像なのである。

 

逮捕する人物が絵に描いたような、まさに「平面的人物」なのであれば、ヒーロー気取りもできて遣り甲斐を感じるのだろうけれど、世の中にはそんな事件は少ない。今回のような案件では捜査をしていく上で「立体的人物」の像が浮かび上がってくることは避けられないことも想像に難くなかった。

 

私はホワイトボードにまとまっている内容を一読し終えると、現場へ急行することにした。私は本当に、正義を果たせているのだろうか――。

 

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