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天宮結衣のQ.E.D. ~幸せのクオリア~ – 第八章:伝説を創る者

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第十三節 一点集中

「デート」という概念は、時代と共に形骸化しているのではないかと思う。僕は、たまたま山道脇に見かけた木造の商店横に車を止めると、無造作に置かれていた錆びだらけのスモーキングスタンドに肘をついて、ライターを親指で弾いていた。パチッという音と供に炎の糸が生まれ、消えていった。

 

デートといえば、遊園地や水族館なんかを思い浮かべる人が多いと思うのだけれど、デートで重要なのは目的地ではないはずだ。

 

辺りを囲う樹木は、その幹をしならせて秋口の木漏れ日模様を再構築している。鼻先に赤黒い滲みを作っている白い細円筒を、二本指に挟んで咥える。

 

この世で始めて、「デート」という発想に辿りついた人物がいたとすれば、それは恋の相手に笑顔を生むためのものだったのではないだろうか。

 

確かに、昔であればデート以外で成熟した男女が話す機会なんて、そうそうなかったのではないかと思う。そういった意味では、お互いのことを包み隠さずに理解し合えるし、性別による価値観の違いという未知に遭遇して何かと貴重な機会だったのだろう。でも、現代では違う。

 

すぐ隣にある「だがし屋―ほうもつでん」と書かれていた木造の商店から、店主らしきおばあちゃんと天宮の話す声が聞こえてくる。僕は、その会話に心を和ませながらも、灰色に染まった息を吐いた。

 

これを言ったらロマンが無いといわれるかもしれないが、現代では欲しいものがあるのならショッピングに行かなくてもネット注文で済ませればいいし、絶景をみたかったのであれば、ネットで写真集でも見れば良い。相手と話がしたいのなら、SNSで好きな時間に話をすれば良いのである。

 

わざわざ、対面で会う必要なんてないし、むしろ効率を考えれば非効率とさえ思えてしまう。ただ、誤解しないで欲しいのだけれど、僕は何もデート不要論を唱えたいわけではない。

 

重要なのは、自称デート設計士である僕の役目が、あくまで彼女の笑顔を引き出すことにあるのだということだ。

 

僕は煙草の火と共に、自分に課せられた罪と、寸分先の将来に対する迷いを打ち消した。

 

第十四節 誰かの幻想が救うもの

私は、久々に駄菓子屋へと足を踏み入れていた。山中にある駄菓子屋なんて商売的に考えれば、どう考えても経営的に不利だと思ったのだけれど。そんなことを考えながら、左足から弾力のある木の板の感触が軋む音と共に伝わってきた。すると、奥の座敷から声がする。

 

「やや、よくいらっしゃったねえ。お嬢ちゃん」

 

声の主は、絵に描いたようなおばあちゃんだった。髪の毛は、すっかり白くなっていて、目も細く見える。

 

「ひとりで着たんね? 彼氏さんと一緒かい?」

 

彼氏だったら良かったんですけどね。と苦笑いで返す。彼は、いま外で待ってくれているのだろうか。

 

「あらあら、そうね。ごめんね。ほら、ここ、あんまり人がこんもんで。暇を持て余しとったのよ。悪いこと聞いたねえ」

 

私は、いえ、と苦笑した後、ふと素朴な疑問を投げかけてみることにした。

 

「どうして、こんなところに駄菓子屋を?」

 

そのおばあさんは、「よくぞ聞いてくれた」といいたげな顔をしてこちらを向いた。瞳の奥が一瞬光ったように。

 

「宝探し」

 

おばあさんの一言に、頭の中で疑問符が立ち並ぶ。宝探し?宝探しって、あの子供の頃に夢見る冒険譚のことだろうか?

「そうそう。昔、わたしの夫。幸男さんがね。子供たちの夢を作るんだって、このだがし屋『宝物殿』を建てて、近隣の小学校に噂を流して回ってたのよ。土曜日と日曜日になると毎週看板を外に出して、平日には隠すのさ。休日だけに出現するパワースポットってね。面白い人でしょ。もう、とうに亡くなってしまったんだけどね」

 

「おじいさん。きっと、すごく優しい方だったんですね」

 

おばあさんは晴れやかな顔つきになると、そのままレジというには旧式の古びたガラスケースに回り込んでいった。歴史を刻んだ匂いが、鼻を掠める。

 

私は、おばあさんが揺れる椅子へ、よいしょ、と腰をかけるのを横目に、懐かしい駄菓子を漁って、数個見繕ったところで気づいた。財布をもってきてなかった。そんなことを考えていると、背中から低い声がした。

 

「ばあちゃん、これくれ」

 

新さんは、私の持っていた子供だましの小籠を指差すと、そそくさとポケットから出した紙幣を一枚、ギシギシと音を立てて軋んでいるガラス台の上に置いた。

 

「つり銭は看板の修理にでも使ってくれ。餓鬼が着いたときに、がっかりするだろ」

 

私は、顔を綻ばせていたおばあさんに小さく手を振ると、子供だましな手さげ袋を握り締めて、明るい外の光に浮き出ている彼の背中から離れることのないように追った。

 

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