作家の味方

Project Creator's Ally

天宮結衣のQ.E.D. ~幸せのクオリア~ – 第三章:いたずら好きの桜木さん

説明ページに戻る

 

第四節 いたずら好きの桜木さん

天宮結衣に遭遇した僕の率直な感想は、こうだ。助けたいと思った。

 

睫毛は長く、腰丈まで伸びていた流れるような髪に目を奪われなかったかといわれれば嘘になるだろう。ただ、僕が一番気になったのは天宮の表情だった。

 

理論に基づいた根拠も確証もなかったが、僕はあの表情が示唆しているものに心当たりがあったのだ。

 

僕がこの病院に入院することになったのは、だいたい一ヶ月くらい前の話になるのだろう。朝起きたら、死ぬほど心臓が痛くて動けなくなっていた。

 

そのまま救急車で搬送されてしばらく、症状が落ち着いたかと思っていたところに、僕は余命を告げられた。人生の終わりというものは、ファンタジー世界のように徐々に訪れるものばかりというわけではなく、あまりにも突然であることの方が多い。

 

昨日あった友達が、この世界にはもう居ないなんてことはありふれている。運が良かった僕の場合は、死に損なうだけで一命を取り留めることに成功したわけだけれど。ただ、僕は直感的に確証も無く、不謹慎な仮説を立ててしまった。

 

あれは死期を悟った人の表情なのではないか、と。そして、彼女はそれが原因で病院から逃げ出したくなったのではないか?と。

 

その場に立ち尽くしていた僕の脇腹は不覚にも無防備だった。人差し指一本に、あふん、という気の抜けた声を強奪されたのだ。

「詠井じゃん! お久しぶり! 病気の方はどう?」

 

振りかえると、悪戯な笑みを浮かべた細身の女性が立っていた。入院していた頃にお世話になった、脳内が年中恋バナで溢れている看護師の桜木さんだ。相変わらず馴れ馴れしいというか、人懐っこいというか。お願いだから、少しは自重という言葉を覚えて欲しいお方である。

 

「検診はまだですけど、自覚症状はあれから特にありません」

 

「相変わらず馬鹿だなぁ。詠井はー。そっちじゃないでしょー」

 

桜木さんは、僕の遮っていた診察室の方を少し背伸びしてチラリと覗き込んでみせた。元患者とはいえ馬鹿呼ばわりはやばいですって、桜木さん。

 

と、つい彼女の心配をしてしまうが、ちょっと待てよ?そっち、じゃなかったなら、一体何の病気の話をしているんだ?

 

「さっき、じーっと見てたじゃない? 彼女、天宮さんだったかなー。たしか」

 

しれっと、聞いても無いのに名前を開示してくるあたりに作為的な何かを感じる。というか、この人いつから、見てたんだ?見かけてから少し様子見てただろ、絶対。

 

「いや、そういうのじゃないですって」

 

図星を突かれて、反論できずにいた僕をみた桜木さんは、ホッペを膨らまして眉毛をハの字にすると、口元をわざとらしく手で隠してみせた。

 

僕はここに、遺憾の意を表明することにしたい!




[第二章へ]  ≪ ー・ー ≫  [続きを読む]

 

[講座説明に戻る]

コメントを書き込む

*

CAPTCHA


本気で小説家を目指す方向け!



Return Top