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天宮結衣のQ.E.D. ~幸せのクオリア~ – プロローグ:誘拐犯は決意する

 

小説・物語の作り方講座 – 本編


※このページは、小説・物語の作り方をお伝えするべく解説用の小説(あえて細かい編集、推敲、校正を後で読者さまと一緒に出来るように施していません)を一冊丸々公開しているページです。

 

もし、このページから入ってきてしまったという方は、最初に[説明ページ]を読んでから読み始めると良いでしょう。

 

また、当該作品は、「小説家になろう」を中心としたWeb小説特有の文体ではありません。あくまで一般的に書店で販売されている小説の書き方をしています。

 

しかし、物語創作というフェーズにおける技術というのは文章表現方法に関わらず、映像作品で使用する脚本を始め、歌詞、ゲームシナリオ、Twitterの140文字小説ですら似たようなポイントを抑えることになります。

 

それでは、前置きはココらへんにするとして、さっそく小説本編をリラックスして読み始めましょう!!楽しみながら、読んで頂ければ幸いです。

 

あらすじ


 

「助けて、くれませんか?」

 

ある夜の話。青年・詠井 新(よめい あらた)は、卵スープを買うためにスーパーへ車を向かわせていると、何故か誘拐犯になっていた。

 

非日常感溢れる「はじめての誘拐生活」で、少年は何を思い。何が出来るのか?誘拐された少女・天宮結衣の願いに隠された真相とは?

 

この物語は、誘拐入門書ではない。ボーイ・ミーツ・ガールでもない。ゴリラ・ミーツ・ラッコである。

 

様々な思惑が渦巻く大事件に巻き込まれる最中、彼らは幸せになれるのだろうか?

 

彼らが見つけた「幸せ」の正体とは、一体……?

 

 

天宮結衣のQ.E.D. ~幸せのクオリア~


 

プロローグ 誘拐犯は決意する

深夜一時、僕は誘拐した女子高生のしりとりに付き合わされながら、車を走らせていた。いや、正確には誘拐ではない。

 

たまたま病院から抜け出してきた、ずぶ濡れの垢抜けない少女を車に乗せて、仲良くドライブを楽しんでいるだけだ。などと思案を巡らせてみたのは良いものの、実に犯罪者の言いそうな供述に仕上がってしまった。前言撤回する必要がありそうだ。

 

やはり、僕は誘拐犯なのかもしれない――。

 

走行時の鈍い風鳴りを耳に、僕はうす暗い車の内でアクセルを少し踏み込んだ。エンジン音が重い音を立てて、僅かに開放感を演出してくれる。

 

通り過ぎる街頭の数は、明らかに一本また一本と減っていて、少女の逃げ出してきた病院からは結構な距離ができている、はずだ。

 

そんな足早な僕の心音とは裏腹に、助手席にちょこんと行儀よく座っている可哀想な囚われのお嬢様は、咲き乱れたひまわり畑を照らす太陽のような笑顔で、こちらを指差してきた。

 

「ゴリラ!」

 

いや、僕は決してゴリラではない。がたいが良いわけでもないし、意気ようようと胸を叩いて類人猿の仲間入りを果たす正式な手続きも踏んだ覚えはない。正真正銘のピュア★ボーイだ。これはあくまで、しりとりであることを忘れてはならない。

 

助手席に座っている天宮の透き通るように明るく長い髪先は雨水を弾いていて、煌く光の粒子たちを踊らせている。

 

うっかりみとれていると、運転中だということを忘れそうになってしまったが、彼女が付けているコルク調の髪飾りのおかげで、どうにか次のラリーも続けることができた。ラッコの顔が印字されている黒髪についた可愛い髪飾り様様というわけだ。ラッコ。

 

車窓を激しく叩いていた大小さまざまな雨粒たちは、いつの間にやら機嫌を直したかのように口をつぐみ、風にその身を任せるように車の表面を這っては飛び立ってゆく。

 

夏の気温も悪さして車内は蒸しているが、いま換気したら天宮の身体がきっと冷えてしまうことは想像に難くなかった。そう、いま僕がすべき最優先事項は、とにかく遠くへ逃げること。その次に、ふかふかタオルを調達して彼女を乾燥ミイラにすることなのである。もちろん、これはとても面白いジョークである。

 

空調の雑音が頬を撫でる。その感触に、僕は現実へと戻されていた。左のウィンカーをつけると、付けていたヘッドライトが夜道を眩く照らしつける。

 

「天宮。タオルとか必要なものを買ってくるよ」

 

なにか他にも欲しいものはあるかい、と続けたが、特にないらしい。

 

彼女と出会ってから数日どころか一日も経っていなかった僕だったが、かなり無茶をする人だということはわかっていた。

 

なにせ病院から抜け出すために、火災報知機を鳴らすほどのやんちゃ具合なのだ。さながら、脱獄囚である。察するに、今回も相当な無茶をして疲れているのだろう。

 

何か使えそうなものがあれば、今のうちに手当たり次第、揃えておくことにするか。僕は覗き込んでいた車の穴蔵から腰を正すと、黒く光沢のあるドアを薙ぐように閉めた。

 

月は雲に隠れている。随分と都会から離れてしまったことには、デメリットもあった。道中にコンビニエンスストアがなかったのだ。

 

背後から通りすぎる車のライトは、僕の影を地面に映し出しては、闇に呑み込んでを交互に繰り返す。彼女を一人車中に残していくのは、正直かなり不安ではあったが、背に腹は変えられまい。まさか、ずぶ濡れのまま連れてくるというわけにもいかないのである。

 

スーパーの周辺は街頭が明々としていて、誘拐犯としては――いや、仮にそうじゃなかったとしても、目には毒だと思う。ちらほらと明かりをさえぎる人影の中に、警官がまぎれていないかと思うと、心臓がきゅっと引き締めつけられそうになる。

 

ただ、気分が高揚していなかったかといわれれば、そうでもなかった。

 

ふと思い返してみると、中学生ごろからだろうか、退屈な日常に何か突飛な変化が起こってくれないか、明らかに期待していた節がある。

 

信じられない事件に遭遇したり、ある日突然、異世界からの使者が自分の元へ訪れてきたり、なんて都合のいい展開だ。もちろん、現実にはサラリーマンになるか、フリーランスになるか、ニートになるか、それくらいの選択肢しか、僕たちを待ち受けていない。

 

だからといって、それを易々と受け入れる気にはならないというのもまた、人の運命なのではないだろうか。僕は浮いていた靴底を地面に強くこすり付けると、自動ドアから漏れ出ている明かりの中に足を踏み入れた。

 

天井に吊るされている案内文言を便りに、足を進める。どうやらタオルは、しっかりと置いてあったようだ。会計に向かおうとした僕は、その視線の先に黄色く輝いているものを見つけた。僕はそれを手に取り、重さを確認すると、持っていた大きめの籠へと二つ放り込んだ。きっと、良い土産になるだろう。

 

無事に買い物を終えた僕は周囲に異変がないかを用心深く確認すると、そそくさと車へ乗り込む。半ドアになっていた。ドアを閉め直した僕は、助手席に座る華奢な黒髪の少女に、袋から取り出したタオルを手渡そうとした。

 

「天宮。濡れてると風引くし、タオルを買って……」

 

様子がおかしい。返事がない――。

 

天宮? 彼女の右手を握る。冷たい!?心臓が高鳴る。僕はあわてて、彼女の首元に耳を宛てた。

 

……とくん。

 

脈は、あるようだ。焦るあまり聞き逃していたが、ごく僅かにすぅーっという寝息が聞こえる。緊張の糸がスパッと切れて肩の筋肉から力が抜けた。なんだ、寝ているのか。

 

とはいえ、病人の身体をいつまでも冷気にさらしまうのも良くないだろう。僕は天宮がまとっている水滴をふき取るため、起こさないように薄灰色のワンピースについているボタンをそっと上から一つ外した。

 

透明感のある白い地肌があらわになる。多少の罪悪感も覚えたが、親になった気持ちで、風邪を引かないようにクッキリとしたその窪みのある鎖骨の曲線から雨水を拭き取った。

 

首筋を拭き、後ろ髪に手をのばすと細いシルバーのネックレスがカチャッと音を立てた。このままだと拭きにくいし、一度はずして――。

 

ネックレスの外れる音ともに、街頭に反射して虹色に光った天宮の瞳がこちらを向いて、一瞬心臓が止まるか思った。ただ、驚いたのは彼女が起きたからではない。

 

天宮のやわらかい唇から三十七度の体温が伝わってきたからだ。

 

「ありがと。わたしを拐いにきてくれて」

 

天宮は上目でそういうと、少し甘えたような表情で僕に身体を任せる。僕はそれに応えるように彼女の笑顔から、そっと一筋の涙を拭き取った。

 

大学三年の夏も終わりに差し掛かっていた。僕はまだ就職活動もろくにできていないけれど、いま改めて心に誓うことにしよう。

 

僕は、彼女とここから始まる物語にとって最高の誘拐犯になってやろう、と――。




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